教員コラム / Special Report
管理栄養士の卵が、AIで“自分のアプリ”をつくる日。
解剖生理学実験 × 生成AIの挑戦
2026年5月26日 食物栄養学科 竹嶋 伸之輔 教授
高校生のみなさん、こんにちは。食物栄養学科の竹嶋です。
「管理栄養士って、栄養計算とか調理のイメージ……。プログラミングなんて関係ないですよね?」 ──オープンキャンパスでよく聞かれる質問です。
でも、私たちはちょっと違う答えを用意しています。 先日行われた2年生「解剖生理学実験」の授業では、学生たちが生成AIを相棒に、自分専用の“栄養アドバイスアプリ”をゼロから開発するという、ちょっと驚きの挑戦をしました。今日はその現場を紹介させてください。
1. まずは「自分のからだ」を測ることから
この日の実験で使ったのは、世界中のジムや病院でも使われている本格的な体組成計「InBody」と、安静時の代謝量をリアルタイムで測れる「MedGem(呼気代謝測定機)」。 学生は順番に機械の上に乗ったり、マスクをつけて呼吸の様子を測ったりしながら、体脂肪率・筋肉量・体水分量・基礎代謝量といった「自分のからだの中身」を数字でつかんでいきます。
「思ったより筋肉ある!」「むくみ指標が基準より高い……寝不足のせい?」 ──測定結果が出るたびに、教室のあちこちで小さな歓声と悲鳴(?)が上がります。 データはただの数字ではなく、“自分のからだの取扱説明書”。ここから先の学びが、ぐっと自分ごとになる瞬間です。
2. 「自分の数値」を、世界に一つのアプリへ
ここからが、今回の授業の本番です。 測定したデータをExcelにまとめて終わり……ではなく、「測ったデータを入力すると、その人にぴったりの栄養アドバイスを返してくれるWebアプリ」を、学生一人ひとりが自分の手で作ることに挑戦しました。

▲ 学生のノートPC画面。左にコード、右にプレビュー。「かんたん栄養相談」など、思い思いのアプリ名が並びます。
「えっ、管理栄養士の卵がコードを書くんですか?」と思った方、安心してください。 今回使ったのは、いま世界中で話題になっている「バイブコーディング(Vibe Coding)」という手法。プログラミングの専門知識がなくても、AIと“おしゃべり”するだけで、本物のWebアプリを作れてしまう新しい開発スタイルです。
十文字学園女子大学では、学生全員に「Geminiアカウント(Googleの生成AI)」が無料で配布されています。 学生たちはそのGeminiに、「BMIと筋肉量と代謝量を入力したら、栄養アドバイスを返してくれるアプリを作って」と日本語で頼むところからスタート。 何度かやり取りするうちに、画面の中に本当に動くアプリが現れてきます。
3. デザインも、機能も、“自分色”に
ベースが出来たら、ここから先は完全にオリジナルの世界。 「ピンクで桜のモチーフを散らしたい」「ひまわりカラーで元気な雰囲気に」「アプリの名前は『ひまわり栄養相談室』にしよう」など、同じ授業なのに、出来上がるアプリは全員バラバラです。

▲ ある学生の作品『からだバランス栄養たより』。桜モチーフ&ピンク基調で、入力フォームまでこだわり抜いた一枚。

▲ こちらは『るんるん栄養アカデミー 〜BWA・代謝データを読み解くマイスターノート〜』。ネーミングセンスも光ります。
ボタンの色、フォント、項目の並び順、表示するメッセージのトーン……。 「自分が患者さんだったら、どんなアプリだったら読みたいかな?」“管理栄養士の視点”でデザインを考える──これは、ふつうのプログラミング教室ではなかなか味わえない体験です。
4. 「ちゃんと動く」ってこんなにうれしい
数値を入力して、「アドバイスを作成する」ボタンを押すと── 画面にBMI・水分バランス・筋肉量・実測代謝量などが表で整理され、その下にその人だけのコメントがふわっと表示されます。

▲ アプリの出力例(前半)。BMI・むくみ(ECW/TBW)・筋肉量比率を“信号機方式”で判定。

▲ そして後半。実測代謝量と標準計算値の差を見ながら、「今日からできるおすすめ栄養アドバイス」が個別に生成されます。
ちゃんと考えると、これはなかなかすごいことです。 「日本人の食事摂取基準(2025年版)」をAIに読み込ませ、 ハリス・ベネディクト式による標準代謝量との比較、ECW/TBWによる水分バランス評価、サルコペニア傾向のチェック──学生たちは、管理栄養士国家試験にも出てくる知識を、自分のアプリのロジックとして“実装”してしまったのです。
実際に動くアプリを、あなたも試してみよう
授業で提出された作品のひとつ「からだの栄養・水分バランス通信」を、 このサイト上でそのままお試しいただけます。 年齢・身長・体重・むくみ指標(ECW/TBW)・筋肉量・MedGem実測代謝量を入力して 「分析結果シートを作成する」を押すと、BMI判定から代謝タイプまで、 管理栄養士の視点でまとめたアドバイスが表示されます。
※画面に最初から入っている数値はデモ用のサンプルです。ご自身のデータに書き換えてお試しください。
栄養アドバイスアプリを開く(新しいタブ)5. エラーは“敵”じゃない。AIと一緒に乗り越える
もちろん、すべてが順調だったわけではありません。 「計算ボタンを押しても何も起きない!」「Geminiに何度直してもらってもエラーが消えない……!」 ──開発の途中で、頭を抱える学生もたくさんいました。
そこからの行動が、私たち教員にとっていちばん嬉しいシーンでした。「じゃあ次はChatGPTに見せてみよう」「Geminiに、コード全部を別の角度から書き直してって頼んでみる」──いつのまにか、学生たちは複数の生成AIを使い分け、相談しながらバグを解決していく姿勢を身につけていました。
これは、AI時代の社会で本当に求められている力です。 「正解を覚える勉強」から、「AIと一緒に正解を作りにいく勉強」へ。 管理栄養士を目指す学生たちが、そのど真ん中で奮闘してくれました。
学生のひとこと
「最初は『プログラミングなんて無理!』と思っていたけど、AIに日本語で頼んだら本当にアプリが動いて感動しました。 自分の測ったデータが、自分の作ったアプリで読み解ける、というのが新鮮で、栄養の勉強がもっと好きになりました。」
「エラーが直らなくて泣きそうになったけど、ChatGPTにも聞いてみたら一発で原因がわかってびっくり。 “AIをうまく使えるかどうか”は、これからの管理栄養士に絶対必要なスキルだと思います。」
6. これからの管理栄養士は、「現場のDX人材」へ
病院、学校、保育所、福祉施設、企業、自治体── 管理栄養士が活躍する現場では、いま、いたるところでデジタル化(DX)が進んでいます。 栄養指導の記録、献立の管理、患者さんへのアドバイス、健康データの可視化……。「ITは情シスの仕事、栄養士は栄養のことだけ」では、もう通用しない時代になりつつあります。
だからこそ私たちは、こんな成功体験を学生に持たせたいと考えています。
作れる、という自信
「コードを専門に習っていなくても、自分たちの仕事に役立つアプリは自分たちで作れる」。この感覚は、卒業後に必ず武器になります。
AIを使い倒す力
1つのAIに頼り切らず、GeminiとChatGPTを使い分け、ときに議論させながら答えに近づく。AI時代のリテラシーを“実体験”として身につけます。
現場を変える側へ
「システムは誰かに作ってもらうもの」ではなく、「自分たちの手で、現場の課題を解決するツールを生み出せる」。そんなDXリーダーへ。
高校生のみなさんへ
「栄養に興味はあるけど、ちょっと地味なイメージ……」 「文系だからプログラミングなんて怖い……」 そう感じている高校生がいたら、ぜひこの記事の写真をもう一度見てみてください。
桜が舞うピンクのアプリ、ひまわりカラーの相談室、マイスターノート風のスタイリッシュな画面── これらは全部、“ふつうの管理栄養士の卵”たちが、ほんの数時間で作った作品です。 専門知識も、デザインのセンスも、最初は誰だってゼロからのスタート。 そして、それを引き出してくれるAIという最強の相棒は、今日からあなたの隣にもいます。
読んだだけではピンとこない方は、ぜひ上の「栄養アドバイスアプリを開く」から実際の画面を触ってみてください。 「え、本当に学生が作ったの?」──そう感じたら、それがこの授業の成功です。
十文字学園女子大学 食物栄養学科では、こんな「栄養 × データ × AI」の学びを、これからもどんどん広げていきます。 みなさんと一緒に、未来の管理栄養士像をアップデートしていけたら、こんなに楽しいことはありません。
2年生のみなさん、本当にお疲れさまでした! ユニパに提出された全員分の作品、ひとつひとつじっくり拝見しています。次の授業も楽しみにしていてください。